[30] 恋の記憶3〜end
彼女、馨と出会ってから、私は大きく変化した。私が今まで知らなかったたくさんのことを教えてくれたし、人生の楽しみ方を教えてくれた。私とまったく違う世界を生きている彼女の全ての行動が、私には新鮮であり、時に驚かされることも多くあった。でも、頑なだった私の心を笑顔にしてくれたのは間違いない事実。

家庭の事情で私が会社員になることを強いられたときも、第一歩を踏み出させてくれたのは馨だった。同じ職場に面接に行って、ふたりとも中途入社することになったが、別々の部署、そして結婚後はじめて社会復帰だったこともあり、仕事に追われて彼女を思いやれなかった。ほどなくして彼女が転職をいくつか繰り返すことになる。私はそのまま残り、4年目。はじめて、ずっと続けたい、と思える仕事に出会えた。私は彼女と会う時間より、仕事と家庭を優先していたのだ。

実家を出て独り暮らしをした彼女の部屋には、2度ほどしか訪れていない。そのうちに結婚相手となる男性と出会い、ますます疎遠になる。私たちのことに、彼女の結婚はあまり関係ないけれど、仕事と家庭を優先する自分を棚に上げて、結婚のことしか見えなくなった彼女から、心が離れていったのは確かだと思う。その時点で、彼女は私を見ていない、と確信がもてた。

すれ違いは繰り返す。もう互いを思いやれなくなっていたと思う。恋人ごっこと数度試みたが、ダメだった。一度拒否されれば、リトライできるほど私は強くない。彼女の態度に別れを予感ししつも、きちんと向き合えないまま過ぎた1年あまり。

「恋人として好きかといわれたら、そうじゃない」

その言葉はズシンと心に響き、闇を落とした。

彼女は言った。
人間としては好き。今は恋人みたいに情熱をもてないけど、またそうなることがあるかもしれない。別に恋人という形にこだわらなくてもいいんじゃないか?どちらかといえば、人間関係としてはステージがあがり、穏やかに変動なく想える段階になったのに、なぜそんなに悲しい顔をするの?

まったく理解できないわけでもない。親友と恋人という関係は混同することもあるほど、近いものだと私も思うよ。でも、恋人として好きじゃない、ということがはっきりわかってしまった今、私はますますあなたのために時間を作ろうという努力はできそうもない。私が求めているのは、恋なのだと思う。家族以外の誰かを好きな時の自分は、年齢も環境も関係なく、相手を想える。私が求めているのはそういう「恋」だよ。もちろん、友達のように語り合ってもいい。でもそれは、恋をしている相手だけなんだ。

手を繋いで、見詰め合って、一目をしのんでキスをする。たまには肌を重ねて、時が止まったような時間をすごしたい。

「ふたりの時間がもてないんだから、仕方ない」というのが一番大きな別れの理由だけどね。でも原因はひとつじゃなくて、そこから悪循環を繰り返してしまったのだろう。彼女がそばにいて欲しいときに、そばにいられなかったのだから、食い下がるわけにもいかない。消化していくしかない。

幸い、私は大人で、仕事も家庭も守りたい気持ちが強い。恋人がいないと生きていけないほどは弱くない。女性を求めてもてあますことくらいはあるだろうけど、なにかの形で誰かにめぐり合うことがあったら、次は傷つけないように、大切に大切にしよう。

このサイトへ訪れて、馨との恋愛を応援してくれた方々、ありがとうございました。
もちろん、馨も。ありがとう。とても楽しい日々でした。きみのシアワセを祈ります。

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