[32] モラトリアムを脱するか
正常妊娠が確定すれば、天野はもう1つの自分を生み出すことになる。女としての私、妻としての私、仕事人としての私、そして、母としての私。(「仕事人」てどうかと思うけどね)でもまだ正直、実感がない…。胎嚢を目視してはじめて、「アナタがそうですか」などと思うのかもしれない。

妊娠は、怖い。したくない。避妊のないセックスも正直、抵抗がある。

それが正直なところで、実は変化していない。夫を受け入れているときも、悦びと共に不安を感じていた。けれど、何かを変えたかったのは確かなのだ。

仕事に明け暮れ、夢中になって働く。夫との関係も良好。毎日が楽しいけれど、その先にはなにがあるんだろう。10年後、私はどうしているのだろう。そういう気持ちから、新しいなにかがあってもいいかもしれない、と思い始めた矢先の出来事なのである。

同じ時間を一定期間何度もリピートしていたのであれば、それから抜け出したい、…と願うような感覚だろうか。もし、神が存在するなら、これは、モラトリアムを脱せよというお達しなのかもしれない。

馨という存在に依存しない生活にも慣れて、少しは成長したのかもしれない。

ちなみに、現時点で例えば流産や子宮外妊娠なんて可能性もなくはないのだが、もしそんなことが起きてしまったとしても、私の人生はやはり大きく動くことになる。

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